bZ4X のハブボルトはなぜ緩むのか

テクノロジー・ビジネス

トヨタが鳴り物入りで投入したEV、bZ4Xがリコールになっています。
内容についてはEVに直接関係する内容ではなく、ハブボルトの緩みです。
自動車には数多くのボルトを使用しますが、中でもホイールに用いるナットやボルトはユーザーによって不適切なトルクで締め付けられることも多いことから安全率を多めにとって設計されている箇所でもあり、なぜここで不具合を起こしてしまったのか不思議ではあります。
この要因について現時点で明らかになっていることをまとめています。
またこのハブボルト構造は新型クラウンでも採用しており、当初出荷遅れとなった要因との話もあるようです。スバル ソルテラについても同様にリコールになっています。

リコールの概要

トヨタの公式WEBサイトによれば以下のように書かれています。
「1.不具合の状況
タイヤを取付けるハブボルトにおいて、急旋回や急制動の繰返し等で、当該ボルトが緩む可能性があります。そのため、そのままの状態で走行を続けると、異音が発生し、最悪の場合、タイヤが脱落するおそれがあります。
2.改善の内容
全車両、当面の措置として、使用者に対し使用停止を要請し、対策が決定次第、恒久対策を実施します。」
使用者に対し使用停止を要請するという異常事態であり、アメリカではバイバック(購入価格相当での買い戻しという最終手段)にまで至っているようです。

ホイール締結の構造について

通常日本車ではハブ側にスタッドボルトが立っていて、それにホイールをナットで締め付けるという構造が一般的です。トヨタも一般的な車はこの構造となっています。
ただし今回のbZ4Xは、ハブ側にねじ穴が切ってありそれにボルトでホイールを締結する構造となっています。欧州車では採用の多い方式です。トヨタとしてはレクサスISやNXから最近採用を始めたばかりの方式です。

スタッドボルト&ナット式のメリット

自分でタイヤ交換をしたことがあればわかると思いますが、日本車で一般的なスタッド&ナット式の明確なメリットとして、タイヤ交換時にスタッドにホイールを引っ掛けられるということが挙げられます。すべてのナットを取り外してもホイールが脱落しづらく作業はしやすいです。

ボルト式のメリット

ボルト式のメリットは諸説あるようですが
①スタッド&ナットに比べて部品の接触する箇所が減るので締結剛性が上がる。
②部品点数が減る分、コストダウンと軽量化ができる
といったことが言われているようです。①については体感できるほどの差異が果たしてあるのか個人的には疑問ではありますが、逆に接触する箇所の多いナット式(座面とナット、ナットとスタッドボルトの2箇所になる。一方ボルト式だとボルトと座面の1箇所のみ)のほうが相対変位を吸収できるので緩みにくいと言えるかもしれません。②については小額ながらコストは下がるでしょう。ただし積極的に採用するほどの大きな効果はないと思われます。
トヨタはレクサス発表時のプレスリリースでハブボルト採用の理由を以下のように説明しています。
「締結力の強化と質量の低減を図ることで、気持ちのいいハンドリングとブレーキングを実現」「高剛性化とばね下の軽量化(ハブナット締結時比約0.7kg減)により、すっきりとした手応えのある操舵フィールと質感の高い乗り心地に貢献」

該当箇所

具体的にどの位置のタイヤが外れているのでしょうか?国内サイトでは記載がなかったので海外のサイトも含めて調べてみたところ下記の記載がありました。
Toyota Recalls bZ4X and Subaru Solterra Due to Loose Wheel Hub Bolts
「One of them indicated loose hub bolts on the front left wheel and the other indicated a separation of the front left wheel from the vehicle.」
front left wheel すなわち 左前輪が外れているようです。
この記述は改善箇所説明図とも一致します。

考えられる要因

ボルトの緩みが発生する要因はいろいろとありますが、緩むということはボルトの座面とねじ面が滑っている。そしてその荷重が繰り返し発生しているということになります。
また公式サイトのリコールの概要には「急制動」の記載があります。ブレーキ時により制動力が加わるのは前輪です。また制動時にボルトが緩む側にモーメントが加わるのは左側のタイヤです。左前輪ということなのでブレーキ系が要因の一つとして考えられます。

ブレーキ関連の新技術について

bZ4Xのブレーキについて調べてみたところ以下の新技術(アドヴィックスの回生協調ブレーキシステム)が投入されているようです。
トヨタ「bZ4X」採用の電動ブレーキ、アドヴィックス“方針転換の第1弾”
アドヴィックス:トヨタ「bZ4X」にアドヴィックスの回生協調ブレーキシステム等が採用
従来型が4輪動圧に対して、新型は全後輪独立調圧となっています。
自動車にとってブレーキは安全上、最も重要な装置であり、新技術を採用する際は十分すぎるほどのテストを実施してから市場に出します。
今回ブレーキに関する新技術を投入していることから、ハブボルトの緩みと関連している可能性はあると思います。

ガソリン車との違い ~回生ブレーキ

あと一般的なガソリン車との違いとしてモーターによってエネルギーを回収する回生ブレーキが挙げられます。bZ4Xは前輪駆動ベースのようなので回生も前輪側がメインでしょう。上記リンクの情報からは前輪の回生量を増やしているように読み取れます。通常の油圧ブレーキが一定の制動力となるのに対して、モーターを用いる回生ブレーキはトルクリップルのような制動力の高周波成分が影響する可能性もあります。

EVの低速から発生する大トルク

内燃機関が高回転域で最高出力を発生するのに対して、モーターは低回転域から最高出力を発生することが可能であり低速域では大きなトルクを発生することができます。このEVの大トルクが緩みの要因になっていることも考えられますし、前述したトルクリップルの高周波成分が影響する可能性もあります。

なぜ対策が遅れているのか

販売停止やバイバックにまで発展していますが、中にはボルトの締結力を上げるなどしてもっと早く対策できないの?と思われる方もいるかもしれません。
通常の不具合の対策としては以下の流れになります。
①真の原因の究明
②原因に対する対応策を設定
③必要であれば追加の検証テストを実施
よって対策が長引いているのは、真の原因が掴みきれていない、有効な対応策を見出だせていない、追加の検証テストに時間がかかっている、などが考えられます。
ボルトの締結力を上げるにしてもそんなに簡単なことではありません。強度に余裕がなければ材質を変更する必要がありますし、ボルトの材料強度を上げると遅れ破壊という高強度ボルト特有の破壊現象にも注意しなければなりません。また、めねじ側の強度は大丈夫か?寸法を変える必要があれば空間レイアウト的に余裕があるのか、ハブやホイールなど被締結物の強度は問題ないか?など影響は多岐に渡ってきます。上記のような理由で、最終的な対策を決めきれていないのかもしれません。

追加情報 トヨタ側の語った内容 (2022年10月6日追記)

この記事は8月初旬に書きましたが2ヶ月経ってようやくトヨタ関係者からの話が出てきました。
トヨタ 前田昌彦CTO、バッテリEV「bz4X」とスバル「ソルテラ」のハブボルトリコールについて語る
要点としては
・一部仕向地のホイール取り付け面の製造品質のブレによる(表面粗さが粗かった)
・対策はハブボルトをワッシャー形状一体型から、ハブボルトとワッシャーをそれぞれ別部品とし、さらにOリング状のゴムを挟み込む
・「電気自動車だからではないのか?」「モーターのトルクが大きいからではないのか?」という質問に対しては否定

まず要因について「電気自動車だから」というところは否定していますが、トヨタとしては当然認めたくないところではあるでしょう。ただし複合要因の一つであることは容易に想像できます。
対策のワッシャー別部品化というのは緩み対策の王道であり、相対変位を吸収する箇所を増やして1箇所あたりのすべり量を減らす効果があります(もともとのナット式のメリットの一つ)。さらにOリング状のゴムを追加するというのは絶対に対策を失敗できないという意思を汲み取れます。
いずれにせよリコール発表から3ヶ月以上経ってからの発表になりますので慎重な検証テストを重ねてきたと思われます。

まとめ

現時点で調べてわかったことを記載しました。左前輪の脱落ということでブレーキが関係している可能性があります。今後また新しい情報があれば追記したいと思います。

最後に…
bZ4Xはサブスクのみという思い切った販売方法で来ましたが、トヨタとしても今後のビジネスのあり方を色々と模索している、といったところでしょうか。クルマのサブスクも増えてきているので選択肢の一つとして考えてみるのもよいと思います。

コメント

  1. 大出竜三 より:

    自動車用エンジンのアルミ鋳造素材の鋳造機を作る会社をやっておりましたが、昔、トヨタがカナダのアルミホイールメーカーを買い取った時、北海道にアルミホイール鋳造の技術支援をする為、鋳造機を愛知県から4台移設しました。日本国内でアルミホイールの製造は、大手2社が多く、中央精機とトピー工業です。私の会社はトピー工業へアルミホイール鋳造機を納入しており、アルミ鋳造品の中で、アルミホイールは、一番強度と靭性を求められる部品で、電気自動車に成って来ると、軽量化と強度、靭性が内燃エンジン機種より求められ、アルミ鋳造から鋳造転造や、回転鍛造+転造等の製法が、増えてきて、既に、2020年の新設設備は50%が鋳造転造に成っておりました。しかし、昔、トヨタは北海道のアルミホイール技術支援機に、エンジンのアルミ鋳造機を持って行き、鋳造条件や材質がエンジンと全く違うという、忠告を聞かず、2年間、その4台の鋳造機でのアルミホイール鋳造立ち上げに苦労し、」失敗し、部長が左遷されました。エンジンの効率は35%から40%で高速回転時に最高トルクを出すのですが、電気自動車の効率はモーター98%とIGBT制御で95%(スイッチング損失が有る為、ガリウム系素子がその問題を解決する。)で90%の効率が始動低速時から出ます。その為、急加速すると、高速運転時からフルブレーキングするくらいの、トルクがアルミホイールにかかります。それと、トヨタのハブボルトの女螺子部は、螺子深さが浅いとの、噂が有り、大学工学部で、設計を学んだ時、螺子径の1.5倍の有効螺子深さが、機械設計では必要と、学んでおりました。安全率を取る場合、2倍の有効螺子深さを、機械設計では見ます。アルミホイールハブ部強度や、素材技術、有効螺子深さ、着座回転角度法での締め付けトルク管理等で、それら、全ての要素で、BZ4Xのホイール取り付け設計のミスが有った物と。考えております。その為、要素が多く、原因特定が出来ないものと思われます。原因は技術重視よりもコスト重視の企業方針の様に思います。

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